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「不適切な買い手」とは?M&A「特定事業者リスト」制度の全貌――経営者保証・資産流出・登録事由を徹底解説

中小M&Aで問題となる「不適切な買い手」とは何か。M&A支援機関協会の「特定事業者リスト」について、5つの登録事由、10・20・60営業日のルール、最低10年の登録、異議申立て、利用者数、仲介・FAに求められる買い手調査まで、一次資料をもとに特集形式で解説します。

「不適切な買い手」とは?M&A「特定事業者リスト」制度の全貌――経営者保証・資産流出・登録事由を徹底解説
SPECIAL REPORT

会社を買う資金がある。譲渡代金も払う。――それだけで「良い買い手」と言えるのか。 中小M&Aでは、成約後に経営者保証が外れない、約束した代金が支払われない、会社の資金が流出するといった問題が現実に制度改正を動かしてきた。 その結果生まれたのが、業界内で問題のある譲り受け側の情報を共有する「特定事業者リスト」だ。

本特集では、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」、2025年2月の情報共有制度に関する資料、 M&A支援機関協会の現行ルール・FAQ、2025~2026年の政府資料を突き合わせた。 結論から言えば、特定事業者リストは単純な「ブラックリスト」ではない。 客観的な登録事由(1〜4号)と、調査・弁明を経て判断される濫用的M&A事由(5号)に基づいて問題情報を共有し、支援機関等が次の案件を受けるかどうか判断するための情報共有基盤として設計されている。

133 利用者数
2026年9月15日時点
10 営業日
保証解除の具体的相談
60 営業日
保証未解除の基準
10年+ 登録情報の継続期間
最低10年間

「会社を買う人」が、なぜ審査されるようになったのか

M&Aでは、買い手が譲渡代金を支払えば取引が終わる――そう考えると、「不適切な買い手」という言葉は少し奇妙に見える。 だが、中小企業のM&Aは株式の受け渡しだけで完結しない。

典型的なのが経営者保証だ。 オーナー社長が会社の銀行借入を個人保証している場合、株式を売却して経営から離れた後も、保証が解除されなければ個人の債務リスクだけが残る。 中小企業庁は、M&A後に経営者保証を買い手側へ移行する想定だったのに実行せず、さらに会社の現預金等を回収して資金繰りを悪化させ、倒産に至らせるような譲り受け側の存在を問題として明示している。

記者の資料取材メモ

中小企業庁の資料を追うと、「不適切な買い手」の問題は、単なる契約違反の話ではなかった。 売却した会社の資産、旧経営者の保証、従業員・取引先を含む事業継続が一体になった問題として扱われている。 だから第3版では、買い手そのものを調べる義務が仲介者・FAに追加された。

編集部対談①|「代金を払える買い手」なら、それで十分ではないのか
記者
売り手からすれば、まず譲渡代金を払ってくれることが大事ですよね。 それなら資金力さえ確認できれば、買い手としては十分ではないんですか。
編集部

それだけでは足りません。 買収資金を用意できても、買収後に最終契約を履行する意思がなければ問題は残ります。

たとえば「旧社長の個人保証を外す」「後払いの譲渡代金を期日に払う」「事業を引き継ぐ」という約束です。 M&Aはクロージング日に代金を振り込んだ瞬間だけを見るのではなく、成約後の義務まで実行できる意思と能力を見る必要があります。

記者
つまり「買収できるか」ではなく、「買収後まで約束を守れるか」を見る?
編集部
その通りです。 現行の資料では、財務状況だけでなく、コンプライアンス、事業実態、最終契約の実行可能性まで調査項目に入っています。 会社の登記や財務諸表だけを見れば終わり、という設計ではありません。

制度は2年でここまで変わった――第3版から「特定事業者リスト」へ

図1|不適切な買い手対策のタイムライン
2024年8月 中小M&Aガイドライン第3版

経営者保証、最終契約後のトラブル、不適切な譲り受け側の排除を明確な論点として追加。

2024年10月1日 M&A支援機関協会が「特定事業者リスト」を開始

不適切な譲り受け側に関する業界内の情報共有を開始。

2025年1月 登録M&A支援機関1社を取消し

M&ADX社について善管注意義務に反する行為が認められ、登録取消し。別途、複数の支援機関へ注意・対策指示。

2025年2月 中小企業庁が情報共有制度の運用骨子を公表

情報共有を中小M&A市場の信頼性を支えるインフラとして位置付け。

2025年4月1日 特定事業者リストを大幅改訂

客観的な登録事由、最低10年間の登録などを明文化。 制度参加会員には、既存の提携仲介契約書・アドバイザリー契約書等を新規約に沿って改訂するため 2025年5月1日までの経過措置が設けられた。 また、新規約は改訂前の契約に基づく取引には遡及適用されない。

出典: M&A支援機関協会「特定事業者の情報共有に関する規約」附則2
2025年10月 利用企業102社

大手金融機関などにも利用が拡大。

2026年9月15日 利用者133社

M&A支援機関協会の公表一覧。事業承継・引継ぎ支援センター等も利用者側に含まれる。

出典:中小企業庁、中小M&A市場の改革に向けた検討会資料、M&A支援機関協会。各時点の公表情報をもとに編集部作成。
グラフ1|特定事業者リストの利用者数は102社から133社へ
2025年10月
102
102社
2026年9月
133
133社
2時点比較では31社増、約30.4%増。2025年10月資料の「利用企業102社」と、2026年9月15日時点の協会公表「利用者一覧133社」を比較した参考値。 厳密な時系列統計ではなく、公表時点の広がりを見るための比較である。

そもそも「特定事業者リスト」とは何か

名前だけを見ると、国が管理する「危険企業のブラックリスト」のように思える。 しかし、制度の実態は少し違う。

現在の「特定事業者リスト」は、一般社団法人M&A支援機関協会が運営する民間の情報共有制度だ。 中小企業庁はガイドラインで、最終契約の不履行などを行う不適切な譲り受け側について業界内で情報共有する仕組みの構築を期待し、 2025年2月にはその制度設計の骨子を示した。 協会の制度は、その考え方に沿って2025年4月に大幅改訂されている。 出典: M&A支援機関協会「特定事業者リスト」、 中小企業庁「不適切な譲り受け側に係る情報共有の仕組みについて」

誤解① 国の公開ブラックリスト?
違う。一般公開の検索リストではなく、協会の制度参加者が取引判断に使う情報共有制度。
誤解② ヒットしたら取引禁止?
違う。協会FAQは「取引拒絶の仕組みではない」と明示しており、登録事情を精査して各参加者が判断する。
誤解③ 売り手も検索できる?
原則として顧客向け検索サービスではない。制度参加会員には守秘義務があり、リストにヒットした事実を顧客へ伝えられないとFAQで整理されている。
誤解④ 一度載れば反論できない?
客観的登録事由については、買い手本人が自らの登録状況を照会し、事実関係について異議申立てを行う制度がある。
編集部対談②|「ブラックリスト」ではないなら、何のためにある?
記者
ヒットしても取引禁止ではない。しかも売り手本人には「ヒットしました」と言えない。 それなら何のためのリストなんでしょう。
編集部

目的は「処罰」よりも、支援機関の受託判断を変えることです。 過去に問題が起きた買い手が別の仲介会社へ行けば、情報共有がなければゼロから審査することになります。

リストがあれば、過去の登録事由やその後の解消状況を踏まえて、 「この案件を受けるのか」「追加調査をするのか」「支援を断るのか」を判断できる。 問題事例が仲介会社をまたいで消えてしまうことを防ぐための仕組みです。

記者
では、「載っている=悪質企業」と単純に読んでもいけない?
編集部
そうです。 1~4号には客観的な期限超過で登録される仕組みがあり、不可抗力的な事情が混じる可能性も協会自身が説明しています。 だから備考欄や原因解消措置まで見て判断する設計になっています。

登録事由は5つ――「10日」「20日」「60日」に意味がある

現行制度で最も特徴的なのは、登録事由がかなり具体的に数値化されていることだ。 「なんとなく怪しい会社」を担当者の感覚で載せる仕組みではない。 1~4号は客観的な事由、5号は悪質性・重大性を伴う濫用的な事由として設計されている。 出典: M&A支援機関協会「特定事業者リスト」登録事由1〜5号

用語に注意|「保証債務等」は銀行借入だけではない

この制度でいう「保証債務等」は、銀行借入に対する個人保証だけを意味しない。 規約・FAQ上は、譲り渡し側の関係者が負担する保証債務や担保権を指し、 不動産賃料、リース料、取引債務などに関する保証も含まれ得る。 一方、後述する3号の「20営業日」ルールは銀行借入の保証債務等に限られる。

出典: M&A支援機関協会「特定事業者リストに関するFAQ」No.14 、 登録事由3号
1

60営業日たっても保証が外れない

最終契約で保証解除・移行を合意したのに、M&A実行日から60営業日を経ても保証債務等が解除されていない場合。 取引後に未把握の保証が判明した場合は、判明日から60営業日が基準になる。

2

10営業日以内に金融機関へ具体的相談をしない

解除合意があるのに、買い手が金融機関等へ保証解除の具体的な申し入れをしない場合。 単なる挨拶や日程調整だけでは足りない。 ただし、M&A実行前から買い手も加わり、保証解除に向けた具体的な相談をすでに行っている場合は、 実行後に改めて10営業日以内の相談を要求する趣旨ではないとFAQで整理されている。

3

解除不可・条件付き回答後20営業日以内に実際に解除しない

銀行借入の保証債務等について、M&A実行後に金融機関等へ解除相談を行い、 解除不可または条件付きとの回答を受けた場合に、 そこから20営業日以内に借換え・一括弁済・条件充足等により実際に解除しない場合。 「手続きを始めた」だけでは足りない。 なお、この20営業日の基準は、M&A実行後の相談に対する回答について適用される。

4

確定した後払い代金・退職慰労金を払わない

M&A対価の分割払いや後払い退職慰労金について、支払要件が期日の到来のみなのに期日を過ぎても支払わない場合。 アーンアウトなど、支払額・条件が別要素で変動するものは単純に同じ扱いではない。

5

その他の悪質・重大な行為

明らかな資金不足でのM&A、最終契約上の未決済事項の不当な履行拒否、保証解除の不当拒否、 M&Aを利用した情報の不当取得・利用、買収後に会社から資金を抜きながら必要な運転資金を入れない行為など。 ただし、単に不都合な行為があっただけではなく、悪質で、売り手側に重大な損失・悪影響を与え、M&A取引の健全性を著しく阻害することが要件となる。

図|「10・20・60営業日」は別々の期限ではなく、同じ保証解除プロセス上で重なる
実行前

買い手も参加して具体的な保証解除相談を済ませていれば、2号の「実行後10営業日以内に改めて相談」は不要。

10営業日

実行後に初めて相談する場合、ここまでに金融機関等へ解除に向けた具体的申し入れを行う。

回答後20営業日

実行後の相談に対し、解除不可・条件付き回答が出た場合、20営業日以内に借換え等で実際に解除する。

全体60営業日

20営業日の途中でも、実行日から60営業日を超えて未解除なら1号事由に該当し得る。

例:金融機関の正式回答が実行日から50営業日目だった場合、回答から20営業日以内であっても、 実行日から60営業日を超えて保証が未解除なら1号事由に該当する。 出典: M&A支援機関協会「特定事業者リストに関するFAQ」No.23、No.24、No.27
制度の重要な違い

1~4号は客観的な登録事由として、所定の事実が確認されると原則として登録される。 一方、5号は協会が調査し、買い手側に弁明の機会を与えたうえで悪質性・重大性を判断する。 つまり「客観ルール」と「審査を伴う濫用規定」の二層構造になっている。

登録されたら何が共有されるのか

共有される主な情報 内容 実務上の意味
会社情報 社名、法人番号 同名企業や別法人との取り違えを避ける。
人物情報 代表者名、役員名 法人を変えて再度買収に現れるケースなどの確認材料になる。
登録情報 登録日、登録事由 何が原因で登録されたのかを判断できる。
備考 現在の状況、原因解消措置等 登録後に保証解除などが実現した場合、その後の状況も判断材料にできる。
期間 最低10年間 短期間で情報が消え、別の案件で過去が見えなくなることを防ぐ。

協会FAQでは、保証が後から解除された場合でも、その事実を再報告し、備考欄等へ反映する運用が示されている。 登録を単なる制裁にせず、是正行動も情報として残す点が特徴だ。 出典: M&A支援機関協会「特定事業者リスト」、 FAQ No.9、No.18

編集部対談③|誰かが「怪しい」と言えば登録できるのか
記者
ここまで強い情報共有制度だと、誤登録の方が怖くなりませんか。 仲介会社と揉めた買い手が一方的に載せられる可能性は?
編集部

だからこそ登録事由を分けています。 1~4号は期限・未払いなど客観的な事実を基準にし、5号は調査と弁明の機会を設ける。

さらに、客観的登録についても買い手自身が登録状況を照会し、基礎となる事実に認識の相違がある場合は異議申立てができます。 調査結果によって備考の追記や登録削除となる場合もあるとFAQで説明されています。

記者
ただ、客観的登録だと買い手に自動通知されないんですよね。
編集部
そこは制度上かなり重要なポイントです。 FAQでは、客観的登録事由による自動登録の場合は買い手へ通知せず、5号の主観的事由では弁明手続を経て登録後に書面通知すると整理されています。 一方で買い手自身は、自らが登録されているか協会へ照会できます。

仲介・FAは「買い手を調べる」ことまで求められる

特定事業者リストだけを見ても、不適切な買い手対策の全体像は分からない。 第3版のもう一つの大きな変更は、仲介者・FAに対して、買い手が最終契約を履行し、対象事業を引き継ぐ意思・能力を持つか調査することを求めた点だ。 さらに売り手に対し、契約前にその調査の概要を説明することも求めている。

調査分野 確認方法の例 何を見るか
財務状況 財務諸表 債務超過・赤字、現預金、M&Aを実行できる財務状態か。
コンプライアンス Web上の不芳情報、社内DB、業界の情報共有制度、外部DB・調査会社 反社会的勢力との関係、過去のM&Aトラブルなど。対象は経営者だけでなく役員・主要株主・関連会社にも及ぶ。
事業実態 商業登記、地図、事業所訪問 実体のある事業者か、契約権限を持つ者か。
最終契約の実行可能性 財務諸表、預金通帳、融資証明書、金融機関との調整状況 譲渡代金や契約条件を実際に履行できるか。
図2|「問題の買い手」を次の案件へ通さないための情報循環
案件Aで
不適切行為を把握
制度参加者が
協会へ報告
登録事由に応じ
登録・調査
別の支援機関が
案件Bで照会
受託・追加調査・
支援可否を判断
目的は自動的な取引禁止ではなく、別の仲介者・FAに移った際にも過去の問題情報を判断材料として引き継ぐこと。

行政も「支援機関側の責任」を問うようになった

不適切な買い手の問題は、「悪い買い手がいた」で終わっていない。 中小企業庁は、その買い手とのM&Aを誰がどう支援したかにも対応を広げている。

1社 2025年1月、M&ADX社について善管注意義務に反する行為を認定し、M&A支援機関登録を取消し。
15社 2024年10月、不適切な譲り受け側とのM&Aを支援した登録支援機関に注意・対策指示。
6社 2025年1月、同様に確認された支援機関へ注意・対策指示。

当時、中小企業庁は全登録支援機関約2,800社にも第3版の遵守徹底を要請し、 ガイドライン違反があれば登録取消し等があり得ることを通知した。 なお、15社と6社に重複があるかは公表資料だけでは判別できないため、本記事では合算しない。

さらに2026年度は、弁護士等で構成する第三者委員会の協力も得ながら、 登録支援機関や相談者への調査を機動的に行い、不適切な支援を行う機関の登録取消しに向けた取組を拡充するとしている。 規律は「ガイドラインを書いた」段階から、「調査して登録を外す」段階へ移っている。

さらに、2026年9月1日にもM&A支援機関登録制度の公式サイトで 「M&Aに係るトラブルの発生を踏まえた対応」が追加公表されている。 本記事の基準日である2026年9月20日時点でも、登録支援機関への監督・注意喚起は継続して更新されている。 個別の最新対応については、公式サイトの公表資料を確認したい。 出典: M&A支援機関登録制度 公式サイト(2026年9月1日新着)

記者の資料取材メモ

制度資料を通して見ると、2024年から2026年の変化は明確だ。 以前は「売り手が注意する」という色彩が強かったが、現在は 買い手を調べる支援機関、その支援機関を監督する登録制度、業界横断で情報を回すリスト という三層の仕組みに変わっている。

売り手が直接「特定事業者リスト」を検索する仕組みではない。それでも確認できることはある

ここは制度を理解するうえで少し意外な点だ。 売り手がWebサイトで買い手名を入力して「登録あり・なし」を直接検索する仕組みではない。 協会FAQでは、制度参加会員には守秘義務があり、顧客へ「リストにヒットした」と伝えることはできないとされる。 出典: M&A支援機関協会「特定事業者リストに関するFAQ」No.19

では売り手は何もできないのか。 そうではない。 中小M&Aガイドラインは、仲介者・FAに対して、業界内の情報共有制度へ参加しているか、参加していないならその旨も、契約前に依頼者へ説明することを求めている。 つまり売り手は「その買い手が載っているか」ではなく、「あなたの支援機関は情報共有制度に参加しているか」を確認できる。

① 情報共有制度に参加していますか 参加有無は契約前の確認事項。参加していない場合、その旨も説明対象。
② 買い手の財務を何で確認しますか 財務諸表だけか、預金通帳・融資証明等まで見るのか。
③ 過去のM&Aトラブルをどう調べますか Web検索だけでなく、業界共有制度や外部DBをどう使うか。
④ 買収資金の裏付けはありますか 「融資予定」だけでなく、金融機関との具体的な調整状況を見る。
⑤ 経営者保証は成立前に銀行へ相談できますか 成立後に解除審査を始めるほど、解除できないリスクは高まる。
⑥ 後払い条件は本当に必要ですか 譲渡代金・退職慰労金を後払いにすると、支払不能・不履行リスクを抱える。
編集部対談④|「一番高く買う会社」が、一番良い買い手なのか
記者
売り手としては、5億円で買う会社と4億8,000万円で買う会社なら、普通は5億円を選びたくなります。
編集部

価格はもちろん重要です。 ただし、5億円のうち一部が後払いで、経営者保証の解除も成約後、 買い手の資金調達も未確定という条件なら、4億8,000万円を全額クロージングで受け取り、保証解除の見通しも固まっている案件と単純比較はできません。

M&Aで比較するべきなのは「提示価格」だけではなく、 受取確実性、契約履行能力、保証解除、事業継続まで含めた取引全体です。 特定事業者リストが生まれた背景は、そのことを制度面から示しています。

記者
すると、仲介会社を選ぶときも「買い手を何社持っていますか」だけでは足りない?
編集部
足りません。 「どれだけ買い手候補を持っているか」と同じくらい、 その買い手をどう審査し、問題情報をどう共有し、成約後の義務までどう確認するかを見るべきです。 マッチング力と審査力は別の能力です。

試験対策としても「周辺論点」ではない

現行の試験科目案では「不適切な譲り受けに関する調査」が優先出題項目

2026年3月公表の「中小M&A資格試験(仮称)」試験科目一覧の現状案では、 M&A実務の「マッチング」分野にある「不適切な譲り受けに関する調査」に、 「特に重要度が高く優先的に出題する項目」を示す印が付されている。 ただし、試験科目一覧は現状案であり、正式な試験案内では変更される可能性がある。

暗記するなら「特定事業者リスト」という名称だけでは足りない。 ①なぜ買い手調査が必要か → ②何を調べるか → ③問題情報をどう共有するか → ④客観的登録事由と5号事由の違い まで一続きで理解した方が、実務にも試験にも強い。

まとめ|M&Aは「売れるか」だけでなく「誰に売るか」の時代へ

中小M&Aの制度は、ここ数年で大きく変わった。 かつては「後継者不在の会社をどう第三者へ引き継ぐか」が中心課題だった。 いまは、その先にある「どの買い手に引き継がせるのか」まで制度が踏み込んでいる。

特定事業者リストは、その象徴だ。 経営者保証が外れない。確定した代金が支払われない。会社から資金が抜かれる。 そうした問題が別の仲介会社・別の案件に移るたびにリセットされないよう、業界横断で情報を残す。

ただし、この制度は「載った企業とは取引禁止」という単純なブラックリストではない。 客観的な登録事由、調査を要する悪質事由、異議申立て、原因解消後の情報更新を組み合わせ、 各支援機関が判断するための材料を蓄積する仕組みだ。

売り手にとって最も重要な変化は、買い手選びを価格だけで考えなくてよくなったことではなく、 買い手の履行能力を調べること自体が、支援機関の正式な業務として位置付けられたことだろう。

「いくらで売れるか」と同じくらい、 「誰が買うのか」「その会社は約束を守れるのか」「支援機関は何を調べたのか」を問う。 それが、現在の中小M&A実務で求められる視点になっている。

参考資料・一次情報

記事情報

本記事は2026年9月20日時点の公表資料をもとに作成しています。 特定事業者リストはM&A支援機関協会の運用ルールにより改訂される可能性があります。 個別案件の法的判断・契約判断については、弁護士等の専門家へ確認してください。

TIA

この記事を書いた人

中小M&A資格対策 編集部

中小企業M&A実務能力・倫理検定試験の受験予定者に向けて、公開資料をもとに試験情報、学習方法、科目別の重要論点を整理しています。

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